吸血鬼

著 : 秋山 恵

伝染



 吸血鬼同士は、お互いが吸血鬼である事を認識出来る。

 人間と吸血鬼は、吸血鬼から見れば人種の違い程度のもので、例にあげるとアジア人と白人のようなものである。

 だが、それくらい容易く認識出来る事になる。

 住みかに帰ろうとしたエレナが偶然見付けた女も、人間ではない事がすぐに分かった。

 エレナは、目の前の同族を見つめた。生まれて間もないような若さだ。力があまり感じられない。そして何か不安定であった。

 若い吸血鬼はハンターの標的になりやすい。このまま放っておくなんて事は、エレナの性格上出来なかった。

 女は自分の感情に困惑しているようだ。手に取るように分かる。エレナ自身の時にそっくりだ。

 血に対する欲求の意味が分からない。

 エレナ自身も困惑していた。

 この近辺に自分以外の吸血鬼はいないはずだったし、付近で活動すれば何となく分かる。目の前の女がどこからわいて出たのか不思議だった。

 若いという事は、何らかの原因で感染したとしか考えられない。

 別の吸血鬼の存在が感じられないとしたら、エレナしかいないだろう。

「こんばんは」

 警戒させないよう努めて笑顔を作り、エレナは日本語で話しかけた。日本には四十年以上住んでいる為、下手な地方出身者よりも綺麗に喋れる。

 相手は硬直していた。

 自分に起きている異変、見知らぬ女。

 女は暫くしてから応えた。

「何が起きているの?」

 女は涙が止まらないようだった。

 その女にも、もう既に分かっていた。エレナが人間ではないであろう事、自分も恐らく同じになった事を。

「あなた、名前は?」

 エレナは笑顔を絶やさない。

 警戒させない程度にゆっくり女の目の前まで移動する。

「大丈夫、安心して。全て話してあげる。だから、まず名前を教えて欲しい」

 女は答えた。

 かすれたような震えた声だった。

「秋山…、紗季…です」

 街灯がスポットライトのように、二人を煌々と照らしていた。



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