血が滴り落ちた。
夜のアスファルトに落ちる赤い体液には、遠く離れたところにある街灯の光さえ届かない。
眼鏡をした若い男が、伸びきった犬歯に付いた血を拭った。頭に血が充満しているような気分になっているようだ。
男は、抱えていた女を投げ棄てるように放り出す。女は道路わきの植木に向かって頭から倒れこみ、力無く呻いて動かなくなった。
まだ息はある。
女の首の根元には噛まれた後が残っていたが、次第に閉じて小さくなってゆき、最後には虫刺され程度になっていった。こうなると、酔って倒れただけのような状態にしか見えない。
男は今の現状に大いに満足した。男は、新しい欲求と、それを満たす力を手に入れたのだ。
力が身体全体にみなぎる。
視界は別の次元を映したかのごとく美しく見えた。
反射神経や、今まで感じた事もないような細かな動きが、全身の神経から入力されてくる。
笑いが止まらなかった。
男は、倒れて冷たくなりつつある女を一瞥し、闇に消えた。