短編集

著 : かげろう

マーガレット


 それは、おばあちゃんの家に遊びに行ったときに起こりました。

 私の家から車で6時間程で、おばあちゃんの家は山奥に建ってます。早朝から車で行く事もよくあり、今日も、まだ外の景色も真っ暗な時に、森林が生い茂る道を走っていました。

 起きた時間が早かったので眠い目を擦りながらも霧がかかる道を走ると、ある光が過ぎ去りました。ですが、この事を両親に話しても全く信じてもらえず、気づいたらおばあちゃんの家に着いていました。

 挨拶を済ませ、さっきのは一体何だったのだろうと不安げだった私に、おばあちゃんは話しかけてくれました。

「その光はね、屋敷のランプなんだよ。それを見たら屋敷に気に入られたのじゃろ。」

 私は背筋がゾッとしました。屋敷に気に入られるとはどういうことなのだろう。

 もしかして、おばあちゃんにからかわれているんじゃないのかなと思いました。


 その日の昼、押し花を作るのが好きな私は押し花を作るため山へ散策しに行きました。

 山には珍しい花が沢山あったので、花に夢中だった私は気がついたら帰る道がわからなくなっていました。

 私はおばあちゃんが言ってたことを思い出し、不安な気持ちでさまよっていると、次第にあたりの視界が広がりはじめ、やがて屋敷が見えてきました。

 目の前には、早朝に見たあの光と別の光。

 そして私の方に近づく人影。

 道に迷ったと口にしようとしたら、なんとその姿は人ではなく、猫の皮をかぶったような人の姿をしていました。

 まるで、映画にも出てきそうな衣装で、とても、伯爵の様な立ち振舞で私へと近づいてきました。そして…

「ようこそ、あなたをお待ちしておりました。」

 お待ちしておりました、って…。

 そして、この人は…

「紹介が遅れました。私はマーガレットと申します。以後、お見知りを」

 私はマーガレットと名乗る猫らしき人物を見ていると、マーガレットがニヤリと笑い、

「立ち話でも私は楽しいのですが、屋敷の中の方があったかいと思いますし、リラックスできると思うので屋敷に招かれてもらえませんか?」

 私はマーガレットの言葉で周りが肌寒いことに気がつきました。

 不思議に思いながらもこのままでは帰ることが難しいと思い、屋敷の玄関へ向かいました。

 玄関の方へたどり着くと、目の前に立つだけで自動で開きました。

 入り口から数メートル先に3人の人間がいて、2人の男性と1人の女性が寄ってきて、一斉に、いらっしゃいと迎えてくれました。

 屋敷の中では暮らせるぐらいの食べ物、遊ぶもの娯楽があり一生この屋敷の中で生きていけると私は3人から聞きました。


 そこから何日経ったか分かりません。

 ある日こと、何不自由なく暮らしていると私はこの生活を手放したくないと思い

「ここにずっと居たい。」そう言葉に出してしまいました。

 その途端に体に変化が起きました。

 外の風の音や何か知らないカサカサした音。

 屋敷の少しカビ臭い匂いなどいつもと違う何かを感じ取れました。

 その時、すごい耳鳴りがしたと思い反射的に耳を抑えるとそこに耳がありませんでした。

 あれ?と思い探してみると頭の上に猫の耳がふたつあり、手をよく見ると肉球がありました。

 猫になりかけています。

 私は怖くなりました。

 猫になりかけているからではありません。自分が誰で何をしていたか、ここに来るまでの事をすっかり忘れていました。

 思い返しているうちに怖くなり思いっきり外に飛び出しました。

 後ろを振り返らずただひたすら走り続けました。そうすると遠くの方から人影が近づいてきました。

 助かったと思い話しかけようとした瞬間、後ろの方から、

「折角ずっとお友達だと思ってたのに。」という声がしました。

 ビクッとして振り返るとそこにはマーガレットがニヤつきながら立っていました。

 それを見た瞬間気絶してしまったのだと思います。


 気がつくと元の森の中にいました。

 辺りを見渡すと、外は夕方になっていました。

 夕方になっても戻ってこないので私を探していた母の呼ぶ「マーガレット」の言葉。

 私は元気よく返事をし、家に、お母さんと一緒に向かいました。



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