静かな部屋の隅で、山県遼二は震えていた。
細みな割に、筋肉質な男だ。
恐らく、今日遭遇した吸血鬼は今までで一番強い。遼二はそれを確信していた。
ヴァンパイアハンターとなり6匹を殺した。力の無い吸血鬼ばかりだったが、今日のは違う。
異能の化け物相手に、体術においてでさえ負けた事が無かった遼二は、少しばかり自分を過信していたようだった。
あらゆる判断においてほぼ完璧に動けていたつもりであったが、ただ一つ見誤った。
あの場で行動を起こし、戦いを挑むべきではなかった。
撃った一発は命中したが、致命傷にはなっていないだろう。新しいタイプの弾丸も効果があったかが分からない。
不意に、机に置いてあった携帯が振動し、不快な音を鳴らした。
遼二はビクリとして恐る恐る携帯の方を見る。
不安な気持ちを押し殺し、遼二が携帯を開くと、メールが届いていた。
『赤毛の吸血鬼の情報はありません。以下2人を送りますので、対処下さい。浅野聡、里見拓哉』
教会の東京支部からのものだ。
増員2名。それでも、まともに戦えば負けるだろう。そう見積もった。
遼二はゆっくりとキッチンへ行き、ウィスキーのビンを手に取った。
中身はほとんど入っていない。
残りの全てをゆっくりとグラスに、最後の一滴まで注ぐと、空のビンをグラスの上で数回振り、ゴミ箱に放り込んだ。
ゴミ箱からは大量の空ビンが溢れている。
この少ないウィスキーでは、もう酔えない。
遼二の震えは止まらなかった。