吸血鬼

著 : 秋山 恵

追跡



 吸血鬼自身で気が付いている者は居ないが、血の欲求がある際、人間には識別出来ないような極微量の香りを出す。

 この香りには特殊な成分が含まれていて、人間の警戒心を弱める効果があった。

 教会は、四十年前にこの香りを発見し、犬を使った追跡、捜索を行い、多数の潜伏先に対して不意打ちに近い形で攻撃を仕方けるに至る。

 これが、四十年前の吸血鬼大敗に繋がった。

 現在も、捜索にこの手段が用いられ、これを担当する者はドッグと呼ばれた。

 浅野は、数匹のシェパード・・・、通称“鼻”を連れてこれをやる。過去に見つけ出した吸血鬼は二十を超えた。

 戦いに置いても敗走の経験がなく、自信に満たされている。足取りは非常に軽かった。

 浅野は今、かなり大きな団地の車道を歩いている。車はあまり通らず、時間帯の為かサラリーマン風の姿が数多く見られる。

 今、浅野が連れいる“鼻”は、大型犬が五匹である。

 道行く人々は距離を置いた。

 遠方に、夜の闇に染まり灰色となった給水塔が見える。

 給水塔が見えるイコール里見の構えるライフルからの射程範囲内と考えて良いだろう。

 練る様に歩き、人通りが無い箇所を探した。数箇所の誘い込みポイントを見付け、地理を頭に叩き込むと団地を後にした。

 捜索は、遼二がメモした情報を元に実施した。遭遇地点から数キロ四方、最大で2駅程度までに留める。

 吸血鬼が好む場所、というものは存在しない。普通の人間と同じで、一人一人が別々の好みを持っているから、捜索は難しかった。

 それに加え、吸血鬼が若ければ若いほど発見は早く、逆に高齢であれば高齢であるほど発見は難しい。若い吸血鬼は血の欲求を抑える事が出来ず、高齢の吸血鬼は血の欲求を抑えるのが早い。

 相手が若い吸血鬼であれば、遭遇の確立は大きく上がるが、そうでない場合、滅多なことでは見付ける事が出来ない。

 その為、参加するハンターがどんなに優秀であったとしても、下手をすると半年の間同じエリアに居る事もあった。

 今回遼二が出会った相手が若いのか高齢なのか、話からは推測が出来ない。若ければ早く見付ける事が出来ると思われるが、時間がかかる事を覚悟してかからなければならないだろう。

 まず、浅野は、人通りが少ない道を重点的に歩いた。

 闇にまぎれて行為に及ぶカップル達に混じり、堂々と獲物を堪能している場合も多い。

 定期的に“鼻”を休めながら、かなりの時間を歩いた。

 五回目の休憩の時点では、深夜になっていた。

 浅野は、駅周辺から円を描くようにして捜索をしていた。丁度、団地から正反対の場所を歩いている時だ。

 “鼻”が二匹、一瞬同じ反応をした。



top