紗季は、エレナに付き添われながら歩いていた。
冷たいはずの冬の深夜の空気が、いつもと比べて身に凍みない。吐息の白さは変わらないのに、感じる温度は室内と変わりがないようだった。
視覚においては、かなり暗い夜道のはずなのに隅々まで見渡せる程の明るさを感じる。
感覚は、周囲からの物理的情報に対する処理速度が考えられない程高い。風が吹いた時の枯葉の動きが全て把握できていた。
エレナと会った時よりも、紗季の能力は研ぎ澄まされているようだ。
紗季は、自分が変わってしまった事を実感していた。
隣を歩くエレナの方を見たが、エレナは何も言わない。沈黙に耐えかね、声をかけた。
「寒くは、なくなるのですね・・・」
エレナはそれに頷いた。
エレナ自身は何か会話をしたい気持ちがあったが、今更ながら、自分のミスで同族を増やしてしまった事に対する申し訳なさが躊躇させた。
精神的苦痛や苦労が増えるだろう。
それが、新たに得られた良い部分と比較して、多いか少ないかは分からない。
暫く歩くと、エレナと紗季が出会った駐車場に差し掛かった。
猫は、出会った時に居た車の隣に止まっている車の下に居た。エンジンの冷える音がしているから、その車はまだ戻ってきたばかりなのだろう。
紗季は足を止めて車の前にしゃがんだ。
猫は、出てこない。
その瞳には脅えの色が映り、警戒と逃走準備の気配を感じるようだった。一歩、二歩と後ろに下がっていき、構えを解かないまま紗季を見つめ返している。
紗季の泣き出しそうな表情を見ながら、エレナは唇を噛み締める事だけしかできなかった。