吸血鬼

著 : 秋山 恵

遊撃



 テレビを観ていた紗季に異変が出始めていた。

 ジワジワと乾きが強くなりつつある。大量の水を飲んでみたがそれも効果は無く、水分で腹が膨れただけで乾きは進行し続けた。

 炎天下の中、アスファルトで舗装された道路を何日も続けて歩いた後のようだ。身体中が熱を帯びているようにすら感じる。

 画面の中の芸能人の首筋から視線が外れなくなっていた。何度も唾液を大きく飲み込む。

 身体の格好を色々と変えてみたり、目を閉じて睡眠を取ろうと試みたが、どうにもならなくなっている。

 紗季は我慢出来なくなり、自分の手首を食いちぎろうと考えた。もしかしたら自分の血でも喉を潤せるかもしれない。

 柔らかそうな白い手首を凝視する。

 血管の位置が手に取るように分かる気がした。脈を打つのが視覚に見て取れる。

 もう我慢をする事が出来ない。そう思い、口を大きく開いた時、玄関の鍵が開く音が聞こえた。



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