「クイズ、推理ッショーク!」
と、歯並びの悪い司会者がカメラに向かって叫んだ。
すると、激しい爆竹の音と共に安っぽいBGMが流れだし、深夜のテレビ放送が始まったのである。
「さあ、今宵も新感覚クイズ番組、クイズ、推理ッショーク!の時間がやってきました。テレビの前で見ている名探偵は一体誰なのか?
視聴者参加型の新感覚クイズショーの始まりです!
ちなみに正解された視聴者の方の中から、抽選で3名様に100万円分の商品券が当たりまーす!」
彼の隣に立っていた女子アナが、気持ち悪い笑顔を振りまいていた。
「それは、楽しみですねー。尚、商品は先着順と成っておりますので、ご了承くださいー」
「えー、私が抽選にすると言った矢先に、先着順だと言ったら視聴者が混乱するじゃないですか。何を言ってくれやがるんですかね、この糞アナは。しかし、こんな事をしている時間はありません。それでは早速ですが、ウルトラスペースダイナマイトローリング第一問!
『殺人者は誰か?』」
苦笑いの司会者が指で合図を出すと、激しいスポットライトと共にブァーと煙幕が集れ、舞台袖から3人の男が現れたのである。
それぞれが暗い顔をしている。
胸に、Aというプラカードをプラ下げている男は、ドラム缶のように太っているのが特徴的だった。職業欄はフリーター、35才と書かれている。
Bの男はつるつる頭のスキンヘッド。見るからに、ヤクザという職業に就いているというのが丸わかりだが、職業欄が空白になっている。
Cはガリガリに痩せていた。病的なほどゲッソリとしているのに、目付きだけはヤクザよりも鋭い。職業は営業と書かれている。
司会者はマイクを手に取り、3人を舞台の真ん中に立たせた。
「さて、事件発生したのは今から2日前。とあるマンションで異臭騒ぎが起こり、その臭いの出所らしい部屋に大家が駆け付けた所、血溜まりの中に女が倒れ込んでいるのを発見したのです。血は少しだけ固まっており、床には引き抜かれた髪の毛とへし折られた歯が散乱していたとの事です。しかも鍵は閉まっており、窓も開いてはいません。つまり、完全な密室だったというワケです」
「マンションとか人が住んでいる所で密室事件なんてベタベタですよねぇ」
「それ以外の所で起こる密室事件なんて、中々ありませんよ。もう口を挟まないで貰いたいですね、この糞アナには。さーて!
事件発覚後、女性の職業が本番ありの風俗女だったので人間関係が複雑でしたが、優秀な警察が犯人を絞り込んでくれました。それが、特に親密な例の3人というワケです。それでは、それぞれの男性に、アナから質問してもらいたいと思います」
「嫌です」
「テメーの仕事をしやがれ、と言った感じですが、マゴマゴしている時間はありませんので、私が質問する事にします。女性は、夕方5時には帰宅したのを近所の人が目撃しており、その後の異臭騒ぎで大家さんが踏み込んだ夕方8時半まで、凡そ3時間の間が犯行可能時間となります。それでは、まずAのデブさん、貴方のアリバイをお伺いしたいのですが?」
「午後、4時半には彼女の部屋の前で待っていました。それから、午後5時に帰宅してきた彼女と15分ほど喋りました。今週末、デートがしたくて。でも、仕事が忙しいと断られました。しかし、だからと言って僕はやってません。その後、僕は家に帰りましたから。……それを証明してくれる人は居ませんけど」
「流石、デブですね。続いて、Bのスキンヘッドヤクザさんのアリバイは?」
「ウルセー!
俺は何も悪い事はしてねぇーよ。彼奴が俺に黙って本番ありの風俗なんてやってるからワリーんだよ。俺は、マンションの外でそこのデブが消えたのを確認してから部屋に乗り込んで、料理をしていた彼奴をぶん殴ってやったよ。その時が、時間は午後7時15分だったかな。時計で叩いたからよく覚えている。そのまま倒れている彼奴を見てたらムラムラしてよ、一発やっちまったから帰るのに時間が掛かってたぜ。ぐはははは」
「流石、ヤクザ、ゲスですねぇ。続いて、Cのガリガリ君のアリバイは?」
「……僕は、3時には居ました。それから、そこの2人が帰るのを見計らってから、彼女と話しました。午後7時40分には帰宅してます。証人はいません」
「そうですか、分かりましたー」
全ての話しを聞き終えた司会者は席に戻った。
「さて、ここで追記する情報を幾つか並べます。まず、3人は以前から面識があります。そして、合い鍵を持っていたのは常連客であるAのデブだけでした。異臭騒ぎの元になったのは、ガスコンロが付きっぱなしだったからのようですね。更に彼女の体内を調べた所、精液が二人分検出された様です」
「なるほどー、もう犯人は分かったようなものですね」
「そして最後に1つ。通常なら犯人は助かりたいが為に嘘をつく事がありますが、今回に限ってそれはありません。嘘は誰1人として付いておりません」
「嘘だったらクイズになりませんからねぇ」
「それでは、シンキングタイーーーム。……ん、今、カンペが出ました。どうやら正解はCMの後にするらしいですね」
「20分番組ですから、当たり前ですね」
「それでは、CMです」
すると安っぽいSEの音が流れ、ADの30秒休憩入ります、の掛け声が飛んでいた。
その時、女子アナが司会者に話しかけていた。
「ねぇ、私犯人分かっちゃったかも」
「それは懐かしいフレーズですね。しかし、貴方みたいに使えない女子アナが正解できますかね」
「ふふ、正解はCのガリガリよ」
「……その理由は?」
「やっぱり最後の面会者が一番怪しい。それと、他の人は居場所を教えたのに、Cだけは具体的な居所を口にしてないでしょ。それは、3時からずっと隠れていたからよ。ただし、その場所は被害者の部屋の中。そして、AとBが帰宅したのを見計らって、彼女を犯してから殺した。言わない、ってのは嘘にはならないからね」
「なるほど。一理ある意見ですね」
「意見って、正解じゃないの?」
女子アナが苛立った声を上げた瞬間、ADから本番入ります、との掛け声が飛んでいた。
そして安っぽいBGMが流れだし、また番組が再開されたのである。
司会者がマイクを手に、中央に立った。
「さて皆さん、考えるのは、ここまでですよ。これ以後に、お気づきになっても正解ではありませんよ。答えは分かりましたか?
それとも、とっくに分かっているのでしょうか?
分かっている場合は、そのままほくそ笑んでいて下さい。それでは正解を発表します!」
その時、チュドーンと軽い爆竹の音がスタジオ内に響いた。
「正解は――『殺人犯はいない』でした!」
「えええええ、ちょっと、どういう事よ?」
「私が始めに何と言ったのか思い出して下さい。私は、『殺人者は誰か?』と尋ねましたね」
「え、でも血溜まりの中に倒れていたって……」
「そうです。倒れていただけで、死んだとは一言も口にしてません。事件が起こったとは言っても、それが殺人事件とは申しておりません。つまり、『殺人者』は誰もいなかった、というのが正解でーーーす!
現在、女性は入院していますが、生きております。ちなみにBのヤクザは暴行とレイプで逮捕。Cのガリもレイプで逮捕。戻ってきたAさんが現場を発見し、恐ろしくなって持っていた鍵を使ったようですね」
「……何それ、卑怯な問題!
100万円、払いたくなかっただけでしょ」
「そんな事はありませんよ。さて、そろそろお時間が来てしまったようです。私達は何時だって名探偵の存在をお待ちしております。クイズ、推理ッショーク!
次回の放送をお楽しみにぃぃぃぃいい!」
「二度と出ないわよ、こんな糞番組!」
叫んでいる女子アナのアップと共に軽快なBGMが流れだし、無事放送が終了したのである。
だが、その後、視聴者からの苦情が殺到し、クイズ、推理ッショークが再び放送される事は無かったのである。