その日は何時もと、同じ始まりだった。
彼は可愛らしい女の子に叩き起こされ、昼間のチャイムが鳴ると同時に給食を食べた。
休み時間には仲間とボールを投げて遊び、使用したハサミも元の場所に返しておいた。
その日は盆と言うこともあり、彼は寄宿舎には戻らずに実家へ向かった。
だが、帰宅を笑顔で迎えてくれる家族の姿は無かったのだ。
皆が寒々しい目で彼を睨んでいる。
何かあったのか、と家族に問いただすと、ポルノ雑誌がテーブルの上に投げ出された。
表紙にはセーラー服を着た女の子達が、胸を出して抱き合っている写真が映し出されている。
「お前の年齢で、こんなものを読むんじゃない」
苛立っている父親にそう叱咤された。
彼には意味が分からなかった。
微かに指先が震えるも、ボーッとした顔で家族を眺めていた。
確かに、あの雑誌は同室のよしみで借りていたの物だ。
だが、ベッドの下に隠していたハズなのに、何故見つかったのだろう。
混濁する意識の中、彼は頭を下げて家族に謝った。
額をフローリングに擦りつけ何度も哀願した。
それでも黙っていた母が嗚咽にも似た叫び声で泣き崩れた。
呆れていた妹は、明日の準備があると一人で部屋に戻った。
最後に父が何処かに行こうとした時、彼はその足に飛びついた。
しがみつく力は年齢の割には強かったと思う。
動悸が激しくなり、涙が自然と流れ出してた。
心の底から反省している事が伝わったのか、父親は二度とこんな事をするんじゃないよと、優しく諭してくれた。
母も笑ってくれた。
彼はありがとう、と何度も頷いた。
絶対に約束は破らないと繰り返した。
「どうした?」
父は雑巾みたいなシワシワの手で、なだめる様に頭を撫でてくれた。
彼は、もしかしたら妹に嫌われたんじゃないか心配だと父に伝えた。
「そうか。だが安心おし。妹も60歳になって、お前と同じ老人ホームへ行くのだから、少し不安なんだろう」